ある書店の長い棚を眺めていたら、
ビジネス書の間にコミックの『キングダム』シリーズが
ずらりと誇らしげに並んでいました。
いま、
この漫画が中小企業経営者の間で
密かなブームになっているといいます。
紀元前3世紀の古代中国、
春秋戦国時代の末期を舞台にした大長編、
『キングダム』。
戦争孤児の主人公・信と、
後の始皇帝となる秦王政を中心に、
さまざまな武人達が次々と登場する
壮大なるスペクタクル巨篇です。
これまでに単行本55巻が出版されているが、
漫画雑誌『週刊ヤングジャンプ』では、
いまも連載がつづいています。
特に30代の若き経営者にとって、
この物語ほど
勇気づけられるストーリーはないらしいのです。
そういえば、
いま60歳を越える僕が起業したのも
30歳のときでした。
そこで
30代の自分に戻って読んでみるのも
いいかもしれないと思い立ち、
全巻を大人買いしてみたのです。
書店から段ボール箱に梱包されて届いた
そのコミックの束を取り出したとき、
あの『サラリーマン金太郞』を読んだときの
ワクワクした気持ちがよみがえってきました。
「コンテンツとは、
「金」か「時」を費やすに値するもの」という
定義をご存じでしょうか。
その言葉のままに、
この山のような作品は、
まさにその両方を注ぐに値するものでした。
ところでディズニーランドは、
性別や年齢を問わず、ご存じのようにあらゆる世代をとりこにする
比類なきコンテンツです。
そのコンテンツの王様、
ディズニーランドに匹敵する魅力を、
このコミックは放っています。
しかも、
ディズニーランドがコンテンツの帝王である
その理由のほとんどを、
この『キングダム』も
かねそなえていると言えるでしょう。
キャラクターの多さをはじめ、
共通点をあげ始めればきりがありません。
たとえばディズニーランドほど
ビジネスのさまざまなシーンでモデリング、
つまり真似されているものはありません。
実際、
ディズニーランドをテーマにした
ありとあらゆるビジネス書が出版されています。
大型の本屋さんでも、
ディズニー関連のビジネス書が
数限りなく棚を埋めているのです。
そう、ディズニーランドほど、
ビジネスの成功の種が
いたるところに蒔かれている場所はないでしょう。
『キングダム』もまた、
若き起業家に、
成功するかどうかわからない
自分のビジネスを成功に導いてくれる
数限りないヒントを提供してくれる
啓蒙になっているのです。
しかも、
何巻の何ページに書かれた言葉にグッときた、
という共通言語が交わされるのは、
ディズニーランドのアトラクションの
「あそこが好き」という
ディズニーマニアの共通言語にも似ているのです。
「戦は“数”じゃねェ “人”だ」
という天下の大将軍を夢見る主人公、
信の言葉は
そのまま企業経営の
最も大切な原理・原則に違いありません。
第1巻の途中で、
主人公と思っていたキャラクターのひとりが
死んでしまったあと、
信が、この物語の行方を背負いますが、
その名の信は、人の言葉と書きます。
人は人が放つ言葉で動く。
強靱な肉体や、
巧みに操る武器も持たない読者達に、
原作者は言葉という知的武装を
提供してくれているのかもしれません。
次々と現れる台詞の数々が、
日々経営者としての孤独と闘っている
若き起業家たちの心に
どこまでも鋭く突き刺さるのは、
ディズニーランドでの数々の出来事が
来場者の心に驚きと感動を刻むことと
ニアリーイコールなのでしょう。
この『キングダム』を題材にした
ビジネス書を書けば
ベストセラーになるだろうと確信しましたが、
実際すでに数多くの書籍が出版されていました。
アニメ、映画、ゲームと
さまざまな関連コンテンツへの展開も、
ディズニーと同じことはもはや言うまでもないでしょう。
時間を忘れさせてくれる。
嫌なことを忘れさせてくれる。
そんな忘却という快感を提供してくれるのも、
『キングダム』と
ディズニーランドの最も大きな共通の魅力のひとつ。
ひとはコンテンツという迷宮で
現実からポジティブに逃避することで、
ふたたび現実に戻るときのエネルギーを受け取ります。
いったいいつ
この『キングダム』が完結するのかわかりませんが、
それは、ディズニーランドが
永遠に未完成ということと同じかもしれないとさえ
思えてしまうのです。
また、何度も行きたくなる。
また、何度も読みたくなる。
ただ面白いだけではなく、
ただ楽しいだけではなく、
感動があり、学びがあり、
ひとを幸せにする力がある。
コンテンツの王様、
コンテンツキングがディズニーランドならば、
この『キングダム』は、
まさにディズニーランドに比肩する
“コンテンツ・キングダム”に違いありません。
「だまされたと思って行ってみてください。
約束します!きっと感動するから」
というディズニーランドをひとに勧める言葉は、
「だまされたと思って読んでみてください。
約束します!きっと感動するから」
というこの大作を
シニアに勧める言葉にそのまま変換されるでしょう。
必読などという陳腐な言葉で
締めくくりたくはありませんが、
まだ読んでおられない方がおれらたら、
もし生きる希望を失いそうになったときには、
迷わずお勧めしたい、
シニアにも必読のコミックです。
ぜひ!